爺が、ひ孫のもとを訪れる。次々に、五人に会う。
一郎君と語る
「なぜ、ボクは生きるの?」と、一郎君。
なぜって、君は生まれてきたから、生きるのだ。
「なぜ、ボクは生まれてきたの?」
そんなこと、わかる人はいないよ。
きっと、君は生まれて来る運命だったのだ。
神様を信じる人なら、神様の思し召しだと思うだろう。
生き物は人間だけでない。人は、植物、動物にも生まれ変わると信じる人がいる。
ともかく、この世に生まれてきたからには、一生懸命生きることだ。
草や木は、生まれた場所に根を張る。土の中の水分と養分を摂取する。周りの土が乾ききったらおしまいだから、出来るだけ根を伸ばす。嵐の時は、根で踏ん張る。
そんな植物は、自分の足で動ける動物をうらやましく思うだろうか? 植物には、そんなことを考える感情はない。
そんな植物の生きる喜びは、種子から芽を出し、茎を伸ばし、葉をつけ、やがて花を咲かせて、実を結ぶことだ。植物が喜びの感情を表すわけではないが、これが、植物が生きる目的なのだ。
動物は、食べ物を探してほとんど一日を過ごしている。
動物は、植物を、そして動物を襲って食べる。食べ物を求め、遠くまで移動する物もいる。
そんな動物の中で人間は道具を造り、火を起こし、文明社会を築いた。動物は、そんな人間のことをうらやましく思うだろうか?
ペットの犬や猫は、飼い主にかわいがって欲しいと思うだろう。
でも、動物には、人間をうらやましいと思う気持ちはない。
どうしてか? 動物は、自分が人間になるなど考えないからだ。
動物は、食べ物を得、ねぐらを造り、子を育て、敵に襲われまいと用心して、生きている。そうやって、一日を生き延びることが彼らの充実感、幸せなのだ。
この世に生まれた者は、生をまっとうして、次世代にバトンタッチする。それが、植物であれ動物であれ、生き物の本能なのだ。
ところが、知力がある人間は、いろいろ余計なことを考えてしまう。植物、動物のような、懸命に生きる本能を失っていることがある。人間は頑張りすぎて、くたびれ果てる時がある。そんな時は、余計なことは考えずに、植物みたいにただ懸命に生きればいいのだ。
不登校の二郎君に
「僕は、何のために生きているのだろう?」と二郎君
君が生きているのは、自分のために決まっているだろう。
皆、生きるのに一生懸命だから、そんなことは考えない。誰も、そんなことは気にしない。君は、どうしてそんなことを言うの?
「僕は生きていて、ちっとも楽しくない。苦痛だ。自分のためにであっても、生きるのは、嫌だ」
生きていて、自分の思うようにならないことは多い。確かに楽しいことばかりじゃない。そして、楽しいから生きるというものではない。我慢しなければならないことが多い。
君は生きるために努力をしなければならない。そんな中で喜びが見つかる。
動物でも植物でも、生きるために懸命だ。
「僕は学校に行ってない。今日も休んだ」
そうか……。登校拒否か。
「僕は学校に行きたくない。友達はいない。皆、意地悪だし、無視される。
でも、お母さんは、そんな僕のことを心配するので学校に行こうと思うが、今朝もお腹が痛くなって、行けなかった。お母さんに済まない」
集団生活になじめない者はいる。それは仕方がない。学校がすべてではない。君は、君の生き方で生きればいい。
君は、どうしたらお母さんを悲しませずに済むか、お母さんと話し合うことだ。君は「学校に行かなくとも、自分なりに勉強する」、そう言ってあげなければならない。そして、君は精一杯生きる。さしづめ、今の君なら、片っ端から本を読むことだ。
ハンディのある三郎君に
「ぼくは、もう生きていたくない。辛いことばかりだ。もう我慢できない。生きるのがつらい」と、三郎君。
どんなことがつらいんだ?
「友達が意地悪する。皆が、ぼくのことを、ばかにする。
ぼくは、皆から愚図だと言われる。ぼくはしゃべるのが苦手だ。ぼくは右足がびっこを引く。ぼくは、皆のようにできない」
そうか、級友がいじめるのか……。
「お前なんか死ねって、言われた。
だから、もう、おしまいにしたい」
そうか、そんなひどいことを言われたのか。
君は「なにを言うか! そんなこと、お前に言われる筋合いはない!」って、言い返さなければならない。
相手に聞こえなくてもいいから、言い返せ。
もし、その時に言い返せなかったとしても、「あいつは、ぼくに死ねって言った」と、先生か、親か、周りの人に、言うんだぞ。
いくら子供だからって、そんなひどいことを言う子を、放っておくわけにはいかない。
そうか……。それで君は、お終いにしたいって考えていたのか?
でもな、他人に、死ねってなじられて、腹いせに死ぬなんて、馬鹿げたことだ。
君の命は、君が守らなければならない。
死ぬってことは大変なことだよ。
そんなことをしてはいけない。
生まれてきたからには、精一杯生きるのだ。
君が皆のように出来なくても、君はその現実を受け入れるしかない。他人と比べて羨ましがってはいけない。君は君、君の生き方がある。
人間社会にいる君は、動物たちに比べれば、恵まれている。君には、植物にない自由がある。君は、君のやりたいことをやればいい。
他の人にどう思われようと、君は君のやり方で生きるんだ。
今日はつらくても、明日を信じ、がまんするのだ。
君が頑張って生きれば、周りの人も理解してくれる。
一生懸命生きる人の姿は美しい。そのけなげな気持ちが、周りの人に勇気を与える。
短気な四郎君へ
四郎君は、なぜけんかした?
気にくわないから、文句を言うのか? そして、言い返されて、カッとなって、腕力をふるう。
けんかをしたら身体が傷つく。心も傷つく。我慢して怒りを抑えろ。けんかを防ぐのは、怒りを抑え、我慢する能力なんだ。それは、子供の頃に仲間の中でもまれて身につくことだ。
そして、怒りの感情がむらむら湧いてきた時、それを押さえる呪文がある。……許してやると言え、と自分に言う……。
奇妙な言葉だが、自分にそう指示するのだ。カッときたとき、これを唱えれば気持ちが楽になることがある。
人は、戦争して殺し合う、馬鹿みたいなことをやっている。
国と国が武器を持ってけんかする。若者が戦場に駆り出され、人を殺し、自分も死んでいく。大勢の罪のない人が殺される。武器,兵器がどんどん進化する。戦争は止めさせねばならない。けんかの好きな指導者を選んではならない。
五郎君を諫める
五郎君。君は、なぜあの子にいじわるする?
あの子を見てると、いらいらする、と言うのか? そして、ばかにしたくなるのか?
君は、あの子がもたもたするのが許せないのか?
あの子は、好きで、もたもたしているのではない。あの子はあの子なりに、精いっぱい、やっているんだ。
あの子は、内気で、上手にしゃべれない。皆に溶け込めない。あの子は、皆を、うらやましく思っている。でも、いっしょうけんめい皆の言うことを理解し、自分の言いたいことを伝えようとしている。あの子は、皆の仲間に入りたいのだ。
五郎君、もし自分が、いじめられたら、どうする?
君の気持が落ち着かなくて、あの子を見ていらだちそうになったら、君は、自分のことを考えろ。
あの子に比べたら、自分は足が速い、力が強い、きちんと話せる、勉強が出来る。そんな自分は恵まれている。
自分は恵まれていて、ありがたいと思ったら、君は感謝せい。
感謝って、どうすればいいか、だって?
天を仰いで、「ありがとう」って言うんだ。小さな声でいい。 |